初対面でも、挨拶はキス?

人々が挨拶をする際に、イギリスでは初対面でもキスをするのは本当でしょうか。 日本には全くないこの習慣、スムーズに行うにはどんなルールを知っておくべきなのか、考えてみました。

 テレビや映画で観る限り、欧米人同士は会うと当然のように頬にキスしているようですが、これは当然、誰でも彼でも目が合ったもの同士がすることではなく、日本のお辞儀や握手に近い感覚で交わされるものです。

 この習慣は、ヨーロッパ(大陸)でより強く残っているようで、両頬に二度ずつ、全部で四回するところもあれば、三回のところもあり、国によっては男性同士でも頬にキスし合うところもあるようですが、イギリスではもう少し淡白な形で行われています。 

 男性同士は会ったときも別れるときも立ち上がって硬い握手を交わし、女性同士、あるいは男性と女性という組み合わせでは両頬か、あるいは片方だけにキスをするのが普通です。

 これが初対面の場合、女性同士でも始めは軽い握手で挨拶し、お別れのときにはキスをする、ただし、会がお開きになるまでに、特に会話をすることもなかった者同士、というような場合には、やはりキス無しで、手を振ってさようなら、ということもあるようです。 

キスにもいろいろある

 ところで、この「キス」というのにも色々あって、女性の口紅の跡が頬にペットリ残るほど律儀に唇をつける形もあれば、相手のお化粧を崩さないようにと、音だけを立てて、実際には唇を尖らせて相手にキスをするフリだけをする「air kiss」という形もあり、後者は芸能人同士や、一般の人でも外見を重視する人が行うため、時として少々軽薄な印象を残しかねません。 そういった印象を残したくない、でも相手のお化粧を崩すのも悪いな、という場合には、頬と頬を軽く触れ合わせた上で音を立てる、という手もあります。

 さて、上に述べた挨拶のキスの形ですが、相手が私たちのように東洋人だと思うとイギリス人の方に少々遠慮が出てくるのと、また、私たちの方もためらいが出て、相手側に一歩近づくタイミングを逃してしまうのとで、最初も最後も軽い握手だけ、あるいは冗談めかして日本式にお辞儀をし合って終わる、ということが時々あります。 

 私は以前、「手に力の入っていない握手は、『dead‐fish handshake』といわれ、死んだ魚を握っているようで気持ちが悪いと思われるため、避けた方が良い」とどこかで読んだのですが、実際イギリス人女性のほとんどがこのクニャッとした握手をするのがとてもイヤなので、できるだけ積極的に相手にキスしに行くようにしています。

 キスの習慣があるのは他人同士だけではなく、夫婦の間でも「おはよう」「いってらっしゃい」「お帰りなさい」「おやすみなさい」と日常的にあることだというのはよく知られていますが、これが家族親戚の集う場でも行われることまでは、あまり考えられていないのではないでしょうか。 

 誰かの誕生日で集ったときなどは、パーティー会場に一歩足を踏み入れ、間近にいる家族の者と目が合った瞬間から、「Hi,Granny」「Hi,Mum」、、、と、大人も子供も入れて一人一人が入り乱れて抱擁&キスの挨拶をしなければならないのです。 もちろん、その際に「ご無沙汰していましたが、お元気でしたか?」とか、「先日の旅行、お天気が悪くて大変だったそうですね」などという世間話もしなければならず、家族が多いと全員と挨拶するだけでもおおごとです。 

 普通は、友達や知り合いと町で偶然会ったときなどにも頬にキスして挨拶するのですが、家で雇っている使用人、例えば毎週通って来てくれる掃除のおばさんや、庭師のおじさんとは、多少仲が良くなってもそういったことをすることはありません。 ただ、中にはこちらの年齢が浅いと見ると、使用人と雇い主という立場を超えて、年長者の立場から「やぁ、久しぶり」などと言ってキスの挨拶をして来る人がいますが、親しみを感じるよりも先に、こちらのことを軽んじているように感じられて、あまりいい気持ちがしません。 

 が、かといって断るのも角が立つし、と結局あちらのペースに飲まれてしまい、何となく嫌な思いをすることもあります。 また、キスや抱擁が習慣として受け入れられているというのをいいことに、そういった時にさりげなくセクハラをしてくる人がいるのにも閉口します。

 話を聞いてみると、イギリス人女性の中にも、この抱擁やキスがあまり好きではない、という人が意外と多いことに驚きます。とはいえ、小さな頃から両親や親戚との触れ合いの経験が多い彼らは、やはり必要なときにはそれをそつなくこなすことができるのです。 それに比べて私たち日本人は、どうしても相手に触れることが少ないので、冷たく見えてしまいがちです。 特に子供相手のときには少々大げさなくらい抱きしめたり、手を握ったりして上げた方が良いかもしれません。 

 とにかく細かいルールが色々とあるようですが、要は相手次第、そして自分次第です。 自分が嫌だと思う人とまですることはないこの挨拶の方法、まずある程度場数を踏むこと、そしてルールに縛られずに、「自分がどうしたいか」という意思表示をできるようになることが、イギリス人のように自然にこなす第一歩のように思えてなりません。

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